ステンレスは鉄(軟鋼)と比べて、硬く粘りがあるため、
切断や削り・曲げ・プレスなどの加工に機械のパワーや
刃物の硬さなどが必要になります。
ただ、鉄と比べて大きく加工性が変わるかといえば
それほどではなく、例えば鉄(軟鋼)用に作った金型を
ステンレスで使うと、数をこなすうちに金型が使い物に
ならなくなる、といった違いに出てきます。
なので、同じ製品でも鉄からステンレスに材料変更すると、金型も作り変えなければ
ならない、なんてことも生じます。逆にその粘りのため、鉄ではヒビの入ってしまう
曲げ加工でも、ステンレスだとうまくいく場合があります。
ちなみに、鉄製品よりもステンレス製品の値段が高いのは、その加工性というよりも、
ほぼ材料代(中国製で鉄の3倍くらい、日本製で鉄の5倍くらい)によるところが大きいです。
先述したように、ステンレスは錆びないわけではありません。家庭での使用であれば
ほとんど問題はありませんが、加工の影響や使用環境によって、様々な腐食を
起こすことがあります。特に産業用に使う場合は、腐食によるトラブルが大きな損失に
つながることもあるので注意が必要です。
用途に合った鋼種を選定することが大事ですが、留意点として以下のようなことを知っておくと良いでしょう。
溶接で溶けたところの周囲は、熱による金属組織の変質によって腐食が早く現れます。
ステンレスの場合は、「2番割れ」といって、熱影響部で割れることがあります。
溶接の熱影響で金属組織を変質させて腐食割れなどの原因の一つが炭素です。
熱によって炭素が固まり(析出し)、金属粒子の間に入り込んで割れや腐食をおこす
起点になるようです。
ですので、溶接加工品で高い耐久性・持続性が必要な場合は、低炭素材
(記号の後に「L」が付いた鋼種)の使用を検討した方が良いかもしれません。
(家庭等の使用であれば、大丈夫な場合が多いですが。。)
また、逆に高炭素材の場合は溶接自体ができなかったり、溶接して付いたと思っても
すぐに割れたりします。どうしても高炭素材で溶接が必要な場合、溶接強度自体は
下がりますが、ロウ付け等を検討する必要があるかもしれません。
曲げ加工や絞り、プレス加工などで、強引な力で引き伸ばされたりしたところも、錆が発生しやすいです。
また、金属が延ばされたところでは、目に見えないようなクラック(要はヒビです)などができ、
そこが腐食や割れの発生点になる場合があります。
繰り返し、屈伸や振動などの外力が加わるところも金属疲労による割れや腐食が発生しやすいところです。
熱がかかったり冷えたりを繰り返すことも、熱膨張によって屈伸が起きることになります。
電車のレールが定期的に交換されているのもこれの影響です。
汚れではありませんが、海沿いなどは、湿気&塩分が付着して錆を発生させやすいです。
耐食性の品質試験に、「塩水噴霧 ○時間毎に○分を○回」と指示されるのもよく聞きます。
(ちなみに弊社では、某社の環境試験機の棚もよく製造しております)
このように、海沿いなどの錆が想定される場所にはSUS316がよく使われます。
タンク(槽)の液面付近~薬品槽などでは、常に濡れた状態で空気に当たっているようなところも
腐食が進みやすいところです。
例えば、ステンレスとアルミ、鉄とアルミのように違う金属同士が接触しているところは、
電位差による腐食が起きやすくなると聞いたことがあります。
この応用で、犠牲防食といって、わざと卑金属の方をを溶かすことで錆を防ぐ方法があります。
鉄の防錆目的に、亜鉛メッキがよく使用されますが、亜鉛は鉄よりも卑な金属のため、
キズなどが付いても亜鉛が溶け出して鉄の錆が広がるのを防いでくれています。
ステンレスの腐食で怖いのは、鉄の赤錆のように目にみえず、
金属組織の中で割れなどを生じることです。粒界腐食・応力腐食などいろいろな形態がありますが、
目に見えないところで腐食が徐々に広がり、あるとき突然板が割れたり、棒が折れたりします。
そういう腐食を未然に発見するには、超音波や薬品などを使った検査が必要になりますが、
コストの面から、なかなかそこまでできないのが実情です。
余談ですが、ステンレスは、その残材やスクラップをほぼ100%リサイクルできます。
残材をためておいて、ステンレスの材料価格があがったときにまとめて売ることで、
町工場の社長さんが「良い小遣いになった」なんてほくほく顔、なんてこともよく聞きます。